フランスの研究者ラポンシュ氏が「核のゴミ」問題を語る

2011年10月、ベルナール・ラポンシュ氏にお話をうかがいました。

ベルナール・ラポンシュ(Bernard Laponche)氏は、理工科学校(エコール・ポリティック)卒後、フランス原子力庁(CEA)勤務した経歴のある科学者です。
1960~70年代、CFDT(フランス民主労働総連合)責任者。AFME所長。1988~1989年には、ドミニク・ヴォワイエ(緑の党)の技術相談を担当し、ウクライナへの原発輸出に関して反対しました。
現在は、再生可能エネルギーやエネルギー経済の国際コンサルタント。グローバル・シャンス代表。
2011年10月、「EN FINIR AVEC LE NUCLEAIRE」を共著で刊行しました。

ラポンシュ氏のインタビューの一部はこちらの動画に収録されています。

 

以下、インタビューです。


私は1960年代にCEA(フランス原子力庁)で働きはじめ、プルトニウムを専門テーマにしていました。あの当時、プルトニウムの危険性はあまり知られていませんでした。
原子力関係の現場で働く人は、危険など知らされません。危険性に関する教育はまったくなかったのです。原発の仕組みや原子力についての計算などは学びますが、放射線や原子力の危険性については何の教育も議論もありません。

私もほかの人と同じように、危険性を知らずに原子力機関で働いていました。ペーパーワーク中心だったので、労働者とのかかわりもありませんでした。原子力はすばらしいといった講義すらしていたのです。

しかし、次第にプルトニウムが非常に危険だとわかり、プルトニウムにかかわる労働者のリスクに気づきました。

そこで、労働組合CFDT(フランス民主労働総連合)に加わり、原発の危険性を伝えるために、本を出版することにしました。1975年に刊行した「L’Electronucléaire en France」は、原発の危険性を指摘した、その当時としては珍しい本で、かなり話題になりました。1980年に「Le dossier électronucléaire」というタイトルで再版し、こちらは現在でもアマゾンで購入できます(注:原本あり)。

労働組合の一員として、1980年に日本を訪れました。ただ、原子力ではなく、労働組合の会合に参加するためです。

フランスの原発労働者の環境は改善したとはいえないと思います。施設は近代化しましたが、最近は下請け労働者が多く、危険は増しているのではないでしょうか。原子力産業の情報は隠蔽される傾向にあり、事故も公表されません。

原発労働者の状況について、以前はほとんど話題になりませんでしたが、福島の事故後、あらゆるメディアで原子力や労働者の危険性が語られるようになりました。特にメディアパールには多数の記事が掲載されています。

フランスの被ばく労働の現状を語る原発下請け労働者
1990年以降、原発で働く人の8割が下請け労働者という。下請けは7次まで存在し、親事業者のフランス電力公社(EDF)は、何次請けの下請け企業に仕事を依頼してるのか知らず、労働事故、被ばくによる将来的な病気に対して、責任をとる者がいない。

地震が多い日本では、原発は不可能です。つねに地震の心配がある国では、大惨事を避けられません。マグニチュード8の地震はそれだけでも惨事であり、それに原発事故が加わるのですから。

リスク・ゼロなど不可能で、どこにもありえません。ですから、どの国も脱原発をすべきです。ドイツは地震がないにもかかわらず、脱原発を決めました。日本こそ脱原発をすべきです。状況はフランスよりずっと深刻です。

原発の基本技術は、1940~1960年代にほとんどすべて発明され、その後、発展していません。核兵器の原子炉の技術が、電気を生産する原発の原子炉に発達しただけです。考えてみると、原子力の技術というのはすべて、核反応の危険を防御することに関連しています。しかし、完全に防御するのは無理です。原子炉の中の核燃料は放射能を大量に含んでおり、放射能漏れを防ぐのは不可能です。原子炉が問題なく稼動したとしても、核廃棄物の危険があります。燃料の管理、放射能の管理など、絶対的に制御する技術が必要です。毎日のように起こる事故も防がなければなりません。

リスク・ゼロは存在しません。福島のような事故はときどき起こります。日本やロシア、フランスでも。5年おき、10年おき、もっと頻繁かもしれず、それは誰もわかりません。
被害は広い範囲におよびます。福島の事故で、東京も放射線で汚染されました。恐ろしいことです。東京には200万人が暮らしていますよね。多くの人が命を落とし、もしくは、病気になるかもしれません。

私はこうした原発を受け入れることができません。そういうものは受け入れられるべきではないのです。

原子力は最初、電気を生産するすばらしい技術だともてはやされました。しかし、放射能は何の役に立つでしょう? しかも、事故の可能性が伴います。スリーマイル島、チェルノブイリ、福島で、リスク・ゼロが存在しないことは理解できるはずです。ゼロではないとわかったら、止めるしかありません。信頼できない技術は、放棄すべきです。

1920年代、大西洋を横断する未来の交通手段として、飛行船が登場しました。しかし、ニューヨークの上空で燃えるという事故が起き、飛行船の技術はすたれました。原子力も同じ運命をたどるべきです。原子力は50年前の技術で、もはや時代遅れなのです。

福島第一原発の第3号機で使用されていたMOX燃料は、より多くの放射能を含み、非常に危険です。MOXは核燃料のなかでもっとも危険な物質です。ですから、製造を完全に中止しなければなりません。リスクがさらに増すだけです。わざわざ危険を加える必要はありません。本当に中止すべきです。

脱原発が実現しても、核廃棄物は残ります。先日事故のあったフランスのマルクールの核廃棄物処理はひどい状況です。事故が起きれば、核廃棄物は増えます。日本はあらゆるところに核廃棄物が散在してしまいました。

今のところ、核廃棄物処理のいい解決方法はなく、ましな(悪くない)方法を考えなければなりません。地中に埋めるなど、とんでもない方法です。日本やフランスで、200万年、300万年、400万年も、核廃棄物を地中に埋めておくことなどできません。日本は特に、地震が起きたら、埋めた核燃料が上昇して地表に出てくるでしょう。

フランスや日本やアメリカで、核廃棄物の適切な処理方法が発明されるのを、私は期待しています。多くの科学者が、核廃棄物の処理方法について研究しているので、近い将来、解決策を見出すでしょう。

 

フランスの”核のゴミ”はどこへ?深刻化する核廃棄物問題
毎年、フランスの58の原子炉から1200トンの使用済み核燃料が産出される。使用済み核燃料に加え、原子炉の閉鎖や解体から出た核廃棄物もある。あわせて、1000㎥の核のゴミがフランス国内に存在している。これらをどうすべきか、処理費用はいくらか。

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