恵庭OL殺人事件 第2次再審請求審の進行の経緯(3)

恵庭OL殺人事件の第2次再審請求審の三者協議が2017年3月、札幌地方裁判所ではじまりました。

第3回三者協議 2017年6月1日

6月1日午後、第3回三者協議が行われました。

弁護人が第2次再審請求を申し立ててから半年経ちますが、検察側の意見書はまだ提出されていません。

「提出時期をはっきりさせてもらいたい」という弁護人の請求に対し、「提出時期の明言はできない、早くても、8月11日以降の裁判官の夏休みが明ける以降になる」と検察官は返答。

主任弁護士の伊東秀子弁護士は、「検察官として、問題ではないかと思われるような、否定的な対応です。今日の三者協議で、かなり強く、開示を促しました。私たちは、時間を無駄にしたくありません。8月(2018年)に請求人(以下、Aさん)が出所する前に、ちゃんと決着がつけたい」と述べました。

死因に関する検察側の的場光太郎講師(北海道大学)の意見書は、5月中には作成されており、検察官はすでに受領しているといいます。

裁判官は、「死因を問題にした的場意見書だけでも、なるべく早期に提出するよう検討してもらいたい」と検察官に促したそうです。

また、死体の損傷方法については、「須川修身教授(諏訪東京理科大学)の意見書が遅れていて、6月中旬になる予定」と検察官は発言したといいます。

意見書が遅れているだけでなく、検察側は、いずれの意見書も「弁護人に開示する意向はない」と言明したそうです。

さすがに裁判官も、「意見書を弁護人に開示しないというのはありえない。いますぐ開示できないにしても、完成したら、開示するように」と求めたといいます。

弁護団の中山博之弁護士は、「的場講師の死因と須川教授の焼損方法の2つの意見書が出てきてはじめて、検察官は意見書を書くというのです。的場意見書はすでに出ていますが、須川教授の意見書はさらに遅れる可能性があるので、裁判所に、遅くとも6月末までには、意見書を書いてもらうように請求しました」と述べました。

弁護人は、「(的場講師の)意見書がパーフェクトであれば、すぐに開示できるはず。時間がかかっているのは、検察官にとって何か都合が悪い内容なのではないか。的場氏ともう一度検討するのではないか」と訝ります。

証拠開示を拒む検察官

弁護人は、10項目の釈明および証拠の一覧表の開示を検察官に求めていますが、開示を拒んでいるそうです。

釈明に対して検察官は、「釈明の必要はない」と3月に回答してきたため、翌月、弁護人は釈明命令申立書を提出していました。

これら10項目もの釈明は、今回初めて検察官に回答を求めたわけではありません。

弁護人は、確定審において、「被害者の交友関係に関する捜査報告書」「犯行時刻頃現場近くで目撃された2台の車のタイヤ痕に関する捜査報告書」の開示を求めてきましたが、検察官は、「該当する証拠が見当たらない」と答え、その証拠の存否を明らかにしませんでした。

この事件は、犯行の直接証拠や物証がないなかで、捜査の初期段階から、請求人を犯人と絞り、捜査が進められました。弁護人は、「見込み捜査」だったとみています。

たとえば、請求人が事件当日に購入した灯油10リットルが犯行に使われたことになっていますが、この油類の成分は明らかになっていません。

「請求人の灯油を使用したと断定しながらも、現場の衣類から採取した油類の成分を特定する質量分析(マスクロマトグラフィー)は実施しなかったと検察官は言っています。死体焼損に使った油類が、市販の灯油なのか、灯油とガソリンを混合したジェット燃料なのか、大きな争点です」と伊東弁護士。

さらに、「被害者および請求人の各車両から採取され指紋・掌紋に関する捜査」「犯行現場の足跡・タイヤ痕に関する捜査」「現場から採取された残焼物の油類の成分鑑定」は、事件発覚直後に実施されたにもかかわらず、これらの捜査報告書や鑑定結果回答書が作成されたのは数ヶ月後のことです。

弁護人は、「捜査方法に不可思議な点が多い」と指摘します。

こうした検察側の対応に、弁護人は、再審開始を阻止するために、請求人に有利な証拠の存在を検察官は隠蔽しようとしているのではないかとみています。

前回の三者協議(第2回、4月28日)で、裁判官から「『捜査をしたのかしないのか』『捜査をしていないのなら、なぜなのか』を説明するように」と促された検察官ですが、「開示について明瞭規定がないから」と裁判長の前ではっきり回答を拒みました。そして、「上司がそのように言っている」ことを理由にし、上司の文書を読み上げたといいます。

確かに、再審では審理方法を定めた明瞭な規定がなく、証拠開示に向けた訴訟指揮を行うか否かを裁判官が判断することになります。
今回、札幌裁判所は少なくとも、「なぜ開示できないのか」「開示の方向性を検討してもらいたい」と検察官に開示を促す姿勢を示しました。
こうした姿勢の裁判所に検察は拒否することはできず、この場では「検討します」と返答したそうです。

また、証拠の一覧表の開示について、中山博之弁護士は、「証拠の一覧表が開示されることによって、どういう証拠が検察側にあるのかがある程度わかります。そこからさらに、証拠開示の方向にもっていきたい」と述べ、証拠開示の重要性を解説しました。

検察官が保管する証拠の一覧表は、被告人側からの請求があったら,開示しなければなりません。
大崎事件では、第2次再審請求で福岡高裁宮崎支部が開示を勧告したことで、検察側はそれまで「ない」としていた証拠を多数出してきました。

東電OL事件でも、東京高裁の勧告で現場遺留物が開示され、あらたにDNA鑑定がおこなわれたことによって、再審無実になりました。

「検察官が開示しない意向のときには、裁判所が勧告するところまでもっていかないと、事態が動きません。証拠の一覧表の開示については、なんとか裁判所が勧告するように求めていきたいと考えています」と中山弁護士。

第4回三者協議 2017年6月28日

6月28日、第4回目の三者会議が行われました。

再審申し立てから半年が過ぎましたが、検察官の意見書が提出されていません。裁判所に提出予定を問われ、検察官は、「早くとも8月10日過ぎ」と答えたといいます。

弁護側は請求人の意見陳述を求めていますが、裁判所は実施の具体的な判断をしていないようです。

前回の第3回三者会談で、伊東弁護士が、「検察官の意見書を待っている状況では、月日がどんどん過ぎていくだけ。意見陳述をなるべく早期に、夏休みの前にやっていただきたい」と裁判所に言いましたが、その時期の実施は見送られました。

弁護団はまた、被害者の体重と同じ重さのマネキン人形を持ちあげ、女性が単純に死体を運搬することが可能かどうかの実験検証の実施を求めました。被害者より小柄で非力な女性が、ひとりで遺体を運ぶのは不可能であることを立証するのが目的で、弁護人が用意したマネキン人形を、裁判官、検察官、弁護人が順次持ち上げるという方法で行います。

この検証について、検察側は「必要ない」と拒みましたが、裁判所は関心を示した様子だったそうです。

第5回三者協議 2017年7月19日

第5回三者会議が行われた7月19日、検察側は、「早くとも8月10日以降」と言っていた意見書をその日に提出すると言ってきたそうです。弁護人が申し立ててから7ヶ月、やっと検察側の意見書が出てきました。

この日の三者協議で、弁護側が求めていた、「死因」と「焼損方法」の証人尋問について、検察官は「必要ない」と抵抗を続けていましたが、裁判所は「4人(弁護側2、検察側2)について調べたい」との意思を示したといいます。

弁護人は、最低でも、4人の証人尋問を要求しています。弁護側は、『頸部圧迫による窒息死ではない』とする吉田教授と、伊藤教授。検察側は、死因に関して的場講師(北海道大学)、それから、第1次再審請求の際も意見書が問題になった、須川教授です。

(2020年8月10日)

 

恵庭(OL)殺人事件の記事一覧

タイトルとURLをコピーしました