新聞社のセクハラ疑惑不審死 謝罪文提出で解決か(5)

セクハラの被害を受けたというMさんが作成した告発文書は、真偽の確認はとれていませんが、男女雇用機会均等法では、セクハラの事実がなくても、相談があった場合は適切に対応しなければならないことになっています。

前回に引き続き、相談したMさんへの会社の対応が正しかったのか、みていきます。

新聞社のセクハラ疑惑不審死 調査は充分だったか(4)
男女雇用機会均等法では、セクハラの事実がなくても、相談があった場合は適切に対応しなければならないことになっている。道新の相談窓口は機能していたのか。Mさんのセクハラ申告が正しいかどうか、十分に調査を行ったのか。会社の対応について検証する

謝罪と謝罪文の提出

Mさんが会社に相談してから1ヶ月ほど経った2015年1月23日、社員2人はMさんに直接謝罪し、謝罪文を提出しました。

Mさんの認識は、告発文書にあるように、<「証拠はないが信憑性が高い」と判断>され、セクハラ行為に対する謝罪でした。

しかし、民事訴訟で道新は、社員が謝罪した事実は認めつつも、セクハラの存在を否認しました。道新は、何の謝罪だったのかを明らかにしていません。

社員は謝罪の経緯を「不本意だが、ことを大きくするより謝罪ですむなら、今後の煩わしさを避けられると考え、会社の意向に沿った」と訴訟資料で説明しています。

実際、社員2人の謝罪は、具体的な言動や行為について述べておらず、謝罪文にも記していません。

1月23日の謝罪の前に、もうひとつの謝罪についてみておきます。

それは、1月8日の事情聴取の際、何の前触れもなく、本社の男性担当者が提案した謝罪です。ただ、その謝罪は、告発文書に書かれているだけで、他の証拠がないため、事実かどうかは確定できません。

告発文書には、<「ふたりとも忘れたってしらばくれているが、これからもう一度ホテルに来てもらって謝罪させようと思ってるんですけど」と電話がありました。「せっかく(札幌の本社から)来たから謝罪させたということにしたいのは分かりますが、急に言われても心の準備が……会うことを考えると動機がひどくて」と返したところその日は取りやめて帰りました>とあります。

謝罪は被害者から要求があったときのみ行われるべきですが、Mさんの意向を無視して、謝罪させようとしたのであれば、問題です。

1月23日の謝罪は、函館市内のホテルで行われました。現場となった会議室は、8人会議テーブルを備えるほどの広さです。謝罪に立ち会ったのは、本社労務担当部長とセクハラ担当の男性2名。Mさん以外の女性は同席していません。

この面談の一部始終を、Mさんはスマートフォンの動画で記録していました。隠し撮りのため、画像は写っていませんが、音声ははっきり聞き取れます。

一人目の謝罪は13時20分頃から約1分。「当日は、お酒を飲みすぎまして、ちょっと我を忘れてですね、あのような行為をしてしまったことは、えー、反省しています」と述べ、謝罪文を渡しました。Mさんは、「許しませんから」と言いますが、彼女に発言の機会を与えられず、担当者はこの社員を退室させます。

手渡したとされる謝罪文のコピーは、告発資料に添付されています。それには、<大変不快な思いをさせる言動や行為を行い、精神的、肉体的苦痛を与えてしまいましたことを深くお詫び申し上げます>などと書かれています。

二人目の謝罪は13時50分頃からはじまります。その間、Mさんは20分以上待たされたようです。この社員は、「度を越えて飲酒してしまい、えー、理性が働かず、えー、あのような発言をしてしまいました」と約1分間話した後、謝罪文を提出しました。このときも、Mさんはきっぱり「許しません」と言いますが、担当者は「じゃー、いいですね」と彼女の意見を聞かず、社員も「はい、失礼いたします」と退室します。

その後、Mさんと担当者2人は20分ほど会話をつづけます。Mさんは、「お酒を飲んで忘れたって言うのは通用しない、というのを社内でちゃんと言ってもらいたい」と訴える一方、「1次会がとても楽しかったので、後味が悪いものになったのではないかと、支社長には申し訳ない気持ちでいっぱい」などと、ときどき笑声を交えて受け答えしています。

この音声からは、話し合いが穏やかに進んでいるかのように聞き取れます。

道新側は、2月19日の総務局次長からの返答にあるように、<1月23日の謝罪と注意などで一定程度の対応ができたものと考えていた>ようです。

しかし、Mさんは全く納得していませんでした。1月27日に本社の女性担当者に、<学芸会のような謝罪だった>と伝えています。

セクハラ告発者への配慮が欠ける当事者を同席させる会議

2014年7月1日の男女雇用機会均等法の改正で、セクハラ被害者のメンタルケアの必要性が明記されました。しかし、Mさんのケースでは、精神的なストレスを軽減する適切な措置がとられていたのでしょうか。

Mさんは、本社総務局長宛の手紙で、函館支社で1月30日(金)に開催された衛生委員会で社員2人と顔を合わせたときの様子を、<心理的負荷が尋常ではなく、連絡が来た時~当日~翌日の体調不良(特に翌日は起き上がれず、ほぼ一日絶食で寝込む)状態です>と書いています。

そうしたなか、Mさんは、本社で行われる「健康管理担当者会議」に、当該社員1人と出席するよう通知されました。

会議は4時間で、終了後は懇親会も予定されていただけでなく、函館から同行出張するのであれば、Mさんはその社員とほぼ一日、一緒にいなければならないことになります。

「セクハラの場合、加害者と顔を合わすのは精神的負荷が大きく、被害者はほぼ100%退職に追い込まれます。被害者の証言が全て正しいといえなくても、とりあえず両者を自宅待機させるか、加害者を停職や異動させるべきです。事実関係を確認してからの分離では遅すぎます。被害者の安全を第一に考えたら、分離措置がまず基本です」と言うのは、ユニオンの小山さんです。

「Mさんは、衛生管理担当者会議に加害者と出席しなければならなかったと聞いています。これはあまりにも配慮が足りないですよ」と、2015年の取材の際、小山さんは述べました。

非正規社員だったことが不利に?

Mさんの場合、正社員ではなかった点も不利に働いたのかもしれません。

当時の道新函館支社は、報道部に女性記者はいますが、Mさんが所属していた函館支社営業部は女性の正社員はおらず、忘年会に参加した女性三人は契約スタッフと嘱託でした。

新聞社の場合、記者以外の女性の多くが。非正規社員だといいます。

Mさんは1月23日の謝罪の席で、本社の担当者2人から、「契約の更新は今後必要なく、定年まで働いていただくようにしますから」と雇用契約の話を持ち出されます。それに対しMさんは、「更新のたびに、『半年先の雇用が確保された』と思っていたので」「クビを覚悟していたので、とってもうれしい」と、この条件に喜んでいます。

派遣先でセクハラ被害に遭い、日本初のセクハラ労災訴訟で勝訴した経験を持つ佐藤かおりさんは、「非正規の場合、問題を起こすとクビになる恐れもあり、相談できない。体調不良は、非正規社員の契約打ち切りの口実になる。セクハラ被害者が辞めれば、会社は何もなかったことにできますから」と2015年の取材の際に指摘しました。

また、道新の女性記者のなかには、男性社員が非正規社員のセクハラ現場を目撃し、割って入った人もいたとの話も耳にしています。組合女性部では、「非正規社員が困っていたら声をかけよう」と話題に上るといいます。

Mさんの動画でも、「女性スタッフは3年でやめるから、何をしてもいい」「よくわからない理由でやめたり、急にいなくなったりする子がいる」「自分がこうなって、あの子も何かあったのかな、と考える」など、非正規社員の危うさを吐露しています。

非正規社員の場合、労働組合にも頼ることができないのが現実のようです。道新のある組合員は、Mさんの事件について、「被害者が組合員ではないので、労組の動きも鈍いんですよね」と2015年に打ち明けました。

(2020年7月13日)

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