新聞社のセクハラ疑惑不審死 調査は充分だったか(4)

男女雇用機会均等法では、セクハラの事実がなくても、相談があった場合は適切に対応しなければならないことになっています。

Mさんのセクハラ申告が偽りだったとしても、道新のセクハラ対応に落ち度はなかったのでしょうか。

セクハラ相談窓口と担当者

男女雇用機会均等法のセクハラ対策では、セクハラ窓口の設置が義務づけられ、道新も、セクハラ相談を受ける「ハラスメント110番」を設けています。

セクハラ相談に関しては、社外相談窓口もあり、道新健康保険組合が株式会社保健同人社と契約しています(北海道新聞社健康保険組合のサイト)。

しかし、2015年の取材の際、セクハラ相談窓口に関する道新関係者の反応は、「あるのは知っているが、詳しくはわからない」「専用ダイアルで誰が対応しているのか知らない」「本気であそこに相談する社員はいるのだろうか」というもので、「今回の事件でなおさら相談しにくくなった」と言う女性社員もいました。

また、話を聞いた複数の道新関係者なかで、社外セクハラ相談窓口の存在を知るのはひとりだけでした。

企業はセクハラの相談を受ける担当者を任命することになっていますが、役職者がセクハラ相談担当者を務める場合が多いといいます。そのため、被害者側ではなく、会社側に立つ傾向にあり、窓口で直接応対するのは女性であっても、上司に歯向かうのは難しく、結局は抑え込まれてしまいがちです。

さらに、これらの担当者が、セクハラの経験や知識を十分持ち合わせているとは限りません。セクハラ担当者は研修などで専門知識を身につけることになっていますが、その研修は半日だけの講習が多いようです。

Mさんの告発資料によると、道新のセクハラ担当は、本社総務局に所属し、総務局労務次長と衛生管理者(看護師)が相談担当を務めていたようです。セクハラ相談があった場合、通常は窓口担当者の他、担当部署などを含め、チームで解決にあたるそうです。

そもそもマスコミは圧倒的な男性社会で、セクハラに疎いのが現実です。新聞社の場合、その男性社会で仕事をしてきた記者がセクハラ担当の部署に異動する可能性もあます。2015年の取材の際には、「部下に女性がいないため、扱い方をよく知らないのかもしれない」と言う道新関係者もいました。

道新関係者の情報では、Mさんのケースの男性担当者は、元記者だったということです。

女性のための労働組合パープル・ユニオンを設立し、数々のセクハラ問題に取り組んできた佐藤かおりさんは、2015年の取材で、「均等法を守るだけの理由で相談窓口が設置され、実質的に機能していません。研修内容を覚えていない担当者も多い。就業規則でなぜ規定すべきなのか、その核心がわかっていません。被害者が救済されていないのが現実です」と話していました。

「法的枠組みが制定されても、日本では職場でのセクハラ防止策が実質的に機能していません。セクハラ窓口は機能していないどころか、二次被害に遭う場になっています。会社の窓口だけを頼りにする人はあまりいません。大企業を相手に、個人で立ち向かうのは無理ですね」とセクハラ被害者の支援をしている北海道ウイメンズ・ユニオン(以下、ユニオン)の小山洋子書記長(故人・札幌)言います。

Mさんも告発文書で、<あとで考えると、全員の事情聴取が必要というルールは、被害者(女性)ではなく加害者(男性)を守るシステムになっており、セクハラ相談窓口は用意しているだけで、実際は機能していないに等しいです。プライバシーの保護を強調しますが、行っていることは隠蔽です。担当者は上手く誘導します>と書いています。

現場にいた全員への事情聴取についても、ユニオンの小山さんは、「セクハラの証拠がないなか、その場にいた全員に話を聞くといっても、真実を言ったりしません。仕事を失うのを恐れ、保身に走り、加害者に有利になる証言をするからです。自分の安全を守られないなかで、自分に起こったことを全員に知られたら、働きつづけることなどできません」と言います。

不透明なセクハラの有無の調査

Mさんのケースでは、1月8日に、Mさんと社員2人が、セクハラ担当の本社総務局労務担当次長(男性)および衛生管理者(女性)から事情聴取を受けています。

Mさんが2015年2月6日に本社総務局健康管理担当に送った電子メールによると、<電話相談(5回)+ホテルでの事情聴取の結果「証拠はないが信憑性が高い」と判断>とあります。

告発文書によれば、相談報告書が作成される2014年12月26日前に、<処分するには忘年会に参加した全員の事情聴取が必要>と言われたMさんは、<(派遣スタッフ達)が働きづらくなる>という理由で、全員の事情聴取を断っています。ですから、事情聴取をしたのは、当事者3人のみと考えられます。

つまり、年末年始の休みをはさみ、3人の事情調査と告発者の電話で、セクハラの有無を検証し、相談から1ヶ月ほどで結論を出していることになります。

その一方で、Mさんの死後、遺族が依頼したセクハラ調査は、4ヶ月かかっています。2015年2月28日に依頼し、回答があったのは、同年6月26日です。

『週刊朝日』5月29日号の記事に、「調査結果は6月ごろまとめる予定」と道新のコメントがあり、『北方ジャーナル』の記者が、「その内容に誤りはない」と道新本社経営企画局法務広報担当に確認をとっています。

遺族に届いた内部調査は、「セクハラは認めることはできない」という内容で、疑惑否定に至った経緯などはあきらかにしていません。

Mさんが生存中に、もっと丁寧な調査はできなかったのでしょうか?

Mさんの死後に数か月もの日数をかけて行われた調査は、どのようなものだったのでしょうか?

「公平な立場で解決を図るには、第三者機関が必要」と、ユニオンの小山さんは言います。しかし、現在のところ、第三者機関の活用に関する実態を、厚生労働省はつかめていないらしく、そうした情報も公表されていません。「厚生労働省は、均等法の措置義務の実効性について、企業に対して調査すべきです。法律として規定した以上、統計を集め、行政指導する責任があります」とユニオンの小山さんは指摘しています。

(2020年7月13日)

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