新聞社のセクハラ疑惑 告発者は会社に相談したが(3)

セクハラの被害を受けたというMさんが作成した告発文書は、真偽の確認はとれていませんが、道新関係者からのメール、社内文書のコピー、Mさんが撮影した動画、遺族や関係者の証言などを参考に、会社に申告してからの行動を追ってみます。

新聞社で起きたセクハラ疑惑と不審死 事件の概要(2)
セクハラの被害を訴えていた道新函館支社の嘱託看護師だったMさんは、亡くなる前日に、告発文を含む資料一式をメディアを含む道内の団体機関に送付した。関係者からのメール、社内文書のコピー、Mさんが撮影した動画などから、事件の経緯をたどってみる、

10日間迷って会社のセクハラ窓口に相談

セクハラがあったとされる2014年12月8日(月)の夜以降、Mさんは体調不良や食欲不振に悩まされます。

12月18日に、Mさんは道新本社総務局の健康管理担当に電話しました。

そのときのことを12月26日付「ハラスメント相談報告(その二 修正版)」(以下、相談報告書)に、<話しても信じてもらえないという気持ちが強く、相談するまでに10日程かかってしまった>が、<三次会の席で二人の会話から「◯◯ちゃんは良かった(いやらしい表情で)」「△△ちゃんともやりたい」などという言葉が聞かれ、また、ある女性が過去にM部員がらみで誘い出された経験(今回と似ている)があったと聞いていたこともあり、今後被害者が出た場合などに備え、健康管理スタッフや産業医にだけは知っておいてもらいたいと思い、相談した>との記述があります。

電話を受けた女性が偶然セクハラ担当だったため、Mさんは自分の被害を相談しました。

この女性担当者からMさんに送った電子メールの文面を印刷したと思われる資料には、<セクハラ行為は会社としても重くみており事の次第によっては、厳しく処分する方針です。就業規則にもなっています。/今回の件は、非常に悪質で、過去にも被害者が出ているとすると大変なことです>(15時21分)と書かれています。

Mさんが毎日つけていたという手書きの業務日誌には、セクハラ関係で連絡をとった人物の名前が、赤いボールペンで書き込まれています。それによると、12月19日、25日、26日に女性担当者と電話で話しています。

告発文書によると、後日、<「処分するには、忘年会に参加した全員の事情聴取が必要」と言われた>そうです。Mさんは、<大変驚き、「契約スタッフの人も含めて全員ですか?そんなことをしたら彼女達が働きづらくなりますよね?」>と聞いたところ、<「でもそういうことになっているから」「今までそこまで出来た人っていますか?」「あー、私が担当になってから一人くらいいたかなー」というやり取り>があったとあります。

これにより、<厳しく処分する>よう望んでいたMさんは、<処分を諦め>、相談報告書の「今後について」の欄に、<本格的な調査は望んでいない><現職場でこれからも働き続けたいので、大掛かりなことになるのは困る><くれぐれも厳重に注意してもらいたい>と記しました。

年が明けた2015年1月8日(木)、Mさんは函館市内のホテルで、本社のセクハラ担当者2人から事情聴取を受けました。同日、社員2人も事情聴取されたそうです。

その夕方、男性担当者から<「これから……謝罪させようと思ってる」と電話がありました>が、Mさんは<「急に言われても心の準備が…」>と断っています。告発文書には、<性急に片づけたいような威圧的な印象でした。(速やかな解決ということとは違います)>と書かれています。

事情聴取後、Mさんはこの男性担当者と、1月9日、13日、16日の3度、電話で話しています。
Mさんが2月16日に本社総務局長宛に送った手紙には、男性担当者が電話で、<「会社員が始末書書かされるって事は、相当この先、生き辛いんですよー」>と言われるなど、<「セクハラ被害者の神経を逆なでする言動は色々ありました>とあります。

社員2人が謝罪して謝罪文を提出

告発文書によると、<その後、3人の話をセクハラ担当チームで検討してもらい「証拠はないが信憑性が高い」と判断され>、1月23日(金)に謝罪および謝罪文の提出になりました。

この謝罪の一部始終を、Mさんはスマホの動画で記録しています。謝罪については、別項で触れます。

謝罪後の1月27日(火)、Mさんは本社の女性担当者からの電話に、<「学芸会のような謝罪だった」>と告げ、<全然納得していないこと、体調不良が良くならない話>をしました。そして、「社員の異動はないか」と聞いたところ、社員の<肩を持っているとしか思えない発言>しか返ってこなかったといいます。

<産業保健の基本である安全配慮義務を理解しているのか、と怒りに近い感情でしたが、目上の方なので直接言えず引き下がりました><「お話聞いていただきありがとうございました」等と感謝の発言を連発して終わりましたが、本心はまったく違います>と告発文書に書いています。

セクハラ告発者とその当事者を同席させる会議

それから約2週間後の2月5日(木)、Mさんは本社から「健康管理担当者会議」の案内を受け取り、<それまで押さえていた気持ちが爆発>したそうです。

それは、各地で健康相談の担当者に新年度の「安全衛生管理計画書」などを説明する集まりの告知で、現物の写しと思われるA4判の書類が、告発資料のなかに含まれていました。

日時は2015年3月13日(金)の午後1時30分~5時30分、場所は、本社2階・C会議室(2階食堂向側)です。

出席予定者14人のなかに、函館支社からは当該社員1人とMさんの名がありました。

Mさんを憤然とさせたのは、その社員が衛生管理者として参加し、2人が同席しなければならないことです。

会議は4時間で、終了後は懇親会も予定されていました。函館から同行出張するのであれば、Mさんはその社員とほぼ一日、一緒にいなければならないことになります。

Mさんは、翌日2月6日15時52分、健康管理担当者会議の担当者にメールを送付しています。

その文面のコピーと思われる文書は、<昨日、健康管理担当者会議の案内を受け取りました。/内容を確認して愕然としました>とはじまり、謝罪の経緯を伝え、<同じ建物に勤務しているので足音がするだけで動悸がひどい>ことも書き記しています。

Mさんは、セクハラをしたとする人物が<衛生管理担当者を務めるのは問題ない><同席させることによる強い心理的負荷を全く考慮していない>と考える<会社側(労務)>に愕然としたと、メールで訴えています。

このメールの最後には、<最近は訴訟について勉強する日々です…/同じ建物に勤務することによる精神的・身体的苦痛が限界を超えました。/しばらく休みます。>とも書き添えてありました。

Mさんは、2月10日(火)、健康相談室の私物を全て処分し、机周りをきれいに片づけ、夕方17時19分に会議で同席予定の社員に<同じ建物に勤務することによる精神的・身体的苦痛が限界を超えました。/しばらく休みます>とメールして帰宅しています。

セクハラを告発する資料を送付

Mさんは、12日、13日、17日と年休をとり、もともとの勤務外の日とあわせて、8日間、出社しませんでした。

この間、2月16日(月)の昼過ぎに、本社総務局長宛にA4判6枚の手書きの手紙を送っています。

告発資料に添付されたそのコピーには、<3月の健康管理担当者会議の案内を受け取り、目を疑うとともに、絶望的な気持ちになりました>とあり、告発資料を<近日中に一斉送付する予定>と告知しています。Mさんが実際に発送した宛先を箇条書きで記し、<逸失利益(65才までの分)>および<慰藉料(金額は明示しません)>の支払いに応じれば、<資料の一斉送付を止める可能性がある>と書いています。

また、道新の対応については、<恐怖が今でも脳裏に焼きついており「被害者の心のケアという感覚はぬるい……><結局ホテルでの「学芸会」のような謝罪・謝罪文の提出、それだけで終わりました><「処分するためには、参加した全員の事情聴取が必要」と言われ、……諦めた事を後悔しています><被害者の希望や意見を聞くというより、ただ隠蔽する事が仕事だと思っているのではないでしょうか>と批判しています。

さらに、<フラッシュバック、動悸、激減した体重が元に戻らない><同じ建物に勤務しているので、ドアのノック音を聞いてから誰かわかるまでの一瞬の強い恐怖、足音がするだけで動悸がひどい><2月に入ってから我慢の限界を超えたのか、希死念慮まで浮かぶようになりました>と、自分の症状を詳細に書きつづっています。

そして、<お世話になった方々に退職の経緯を知ってもらいたい><毎月数万程度の賃金の為に治療費を払い続け(退職しても)…>と、「退職」という言葉を2か所使っています。

告発資料の発送先にはメディアも含まれ、<同業他社(雑誌社を含め10社程予定)>とあり、<「道新のありえなさ」を道新に言っても仕方ないと思い知らされたので、常識のある世間の人に、今回の件を伝えたいだけです>と記しています。

Mさんのこの手紙の返答は、総務局次長から、2月19日(木)に速達で届きました。この手紙は、Mさんを納得させる内容ではなかったようです。Mさんはこの日、無断で会社を休んでいます。

A4判1枚の総務局次長の手紙のコピーでは、<1月23日の謝罪と注意などで一定程度の対応ができたものと考えていましたが、><被害回復の手立てなどに不十分な点があったとしたら、申し訳なく思っております>と詫びています。

そして、<もう一度話し合いをしたいと考え>ていたが、Mさんと連絡がとれなかったとあり、<いきなりの二社択一では、……再発防止と、ご本人の被害回復にとって、良い結果にはつながらないのでは><二社のどちらかを選ぶにしても、(Mさんが)信頼できる方にご同席いただいた上で、もう一度話し合って>と提案しています。

この手紙について、Mさんは告発文書で、<社としては対応した(謝罪・謝罪文の提出、……への注意)つもり、だそうです。が、全く理解できないのが、私への被害回復の手立てという表現です><異動させず、そのことにより更に健康を害していると訴えているのに一体何をしたつもりなのでしょうか?><「もう一度話し合って」と書いていますが、話し合いにならない会社だから私が抑うつ状態を悪化させていったのは明白です>と憤りをつづっています。

Mさんの両親はこの日の夕方、道新関係者から娘の無断欠勤の連絡を受けたといいます。両親は、自宅近くに住んでいました。

Mさんはこの夜はじめて、親にセクハラ事件について打ち明けました。泣きながら、6時間近く、これまでの経緯を語ったそうです。驚き心配した両親は、マンションに一緒に泊まるようすすめましたが、Mさんは「告発資料を仕上げなければならない」と断りました。

翌2月20日の正午過ぎ、Mさんは自宅近くの郵便局から簡易書留で告発資料一式を13カ所に発送しています。送付資料は、2人の謝罪文、健康管理担当会議案内文、本社総務局長宛手紙、同次長からの手紙、道新の内部文書と思われる書類や電子メール文面など10点22枚です。

送付先の内訳は、地方紙3通、全国紙2通、月刊誌2通とメディアが7通。その他、北海道警察函館方面本部、函館労働基準監督署、札幌市の女性の個人加盟労働組合と団体が3通、個人宛が3通。

労基署宛の告発文書には、「両親が行きますのでどうぞよろしくお願いします」と添え書きがありました。

そして、2月21日の朝5時15分ごろ、Mさんの自宅から失火。Mさんは病院に搬送されましたが、一酸化炭素中毒で死亡が確認されました。

(2020年7月13日)

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