『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2000年1月に掲載された記事です。
その昔、パリのカフェといえば、人々が熱く議論する場所でもあった。文学、芸術、政治etc。時代が変わろうとも、パリジャンは語ることをやめない。そんな彼らの気質を満足させる、ワインのカーブ、本屋、そしてバーを併用した店が話題になっている。「ラ・ベル・オルタンス」のオーナー、イグザビエ・ドナムール氏とエルナン・トロ氏にお話をうかがった。
-ここはバーと呼ぶべきなのでしょうか?
トロ ここは、バーだけではありません。本とワインを買うことができ、バーでワインを飲むこともできる。ワイン屋でもあり、本屋でもあり、バーでもあるという3つの機能を満たしています。パリにはバーがたくさんありますが、このような形式は珍しいですね。フランス中探しても、他には存在しないと思います。
-どのようにこの店が始まったのですか?
トロ 私はもともと近所で本屋をやっていましたが、閉店せざるをえなくなりました。この近辺の小さな本屋の多くが、経営困難のため閉店してしまったのです。そこで、すでにこの道沿いにあるバーやカフェのオーナーだったイグザビエと、ここを買う決心をしました。私が本を担当し、彼がワインを担当しています。1998年2月に開店しました。
ドナムール マレ地区は、夜行性の人種が多いエリアなので、この場所を選びました。ここは午後5時から翌朝2時までオープンしているので、夜遅く本やワインを買いたい人にとても便利なんです。パリでは深夜に開いている本屋やワイン屋がほとんどありませんから。
-ワインと本、とてもフランス的な取り合わせですね。
ドナムール フランスには、本のバリエーションが豊富で、同様に数えきれないほどのワインの種類もあるため、本やワインについて何時間でも語り合うことができます。ワインや本について飲んだり読んだりしながら、語り合う場所というのがこの店のコンセプトです。
-どのような人がここにやって来ますか?
トロ お客さんはだいたい24歳以上と年齢層は高めです。映画、演劇関係の仕事をしている人、アーティスト、作家などが多いですね。このエリアの住人もよく来ます。
ドナムール 日本の雑誌で紹介されたこともあり、日本人も来ますが、いつもワインを買うためで、本を買っていく人はいませんね。この地区には日本人がかなり住んでいるので、旅行者以外の日本人もときどき訪れますが、彼らも目的はワインで、本は買いませんね。日本人にとっては、ワインのほうがより理解しやすいので、ワインについての興味でこの店に来るのでしょう。日本にこのような店があったら、私もお酒が目的で、日本語の本は買わないでしょうから。
-フランス人はもちろん、ワインと本の両方に興味がありますよね。
ドナムール フランス人は、ワインと本を同時に買っていきますね。本を買いに来た人がワインを買っていったり、ワインを探しに来た人が本を見ていったり。ここは両方を兼ね備えていて、とても有意義なスペースといえます。
-どのような基準で本を選ぶのですか?
トロ 主流は文学で、小説、演劇関係、エッセ-本はどのような分野がそろっていますかイ、精神分析関係、哲学などを選んでいます。スペースが広くないため、いずれも限られた選択です。全部で2000冊ほどおいてあります。
ドナムール 売れ筋を狙ったりはしていません。ここの本は、とても厳選された質のいいものばかりです。人気があっても面白くない本はおきません。どちらかというとインテリ向けといえます。
トロ ここにある本すべてを読んでいるわけではありませんが、かなりの本を読んで選んでいます。フランスでは、かなりの数の本が発行されているので、全部読むのは不可能です。ここに来るお客さんが、いい本を紹介してくれることもあります。また、仲間と分担して本を読み、批評してもらうこともあります。
-日本文学もありますね。
トロ フランス文学だけでなく、外国のものもありますが、ほとんどすべてフランス語の本です。日本文学も、フランス語に翻訳されたものだけです。ここは、外国語の本を売っている店ではありません。多少2か国語の本もありますが、基本はフランス語です。
-ここで本を読むこともできるのでしょうか?
トロ 立ち読みは認めていますが、基本的には図書館ではなく本屋なので、全部読むことはできません。
-アート、文化活動も行っているそうですが。
トロ 読書会、討論会なども行っています。討論会は日曜の午前中、読書会は水曜の夜です。
ドナムール また、スペインやポルトガルなど各国の音楽家による歌や演奏コンサートも開きます。奥の部屋はギャラリーにもなっており、随時展覧会を開催しています。
-話題をワインに移しますが、先ほどの男性は試飲をしてワインを買っていきましたね。
ドナムール ここではまず、お客さんにグラスでワインを味わってもらいます。普通のワイン屋では、買うときにワインを試飲しないので、それがおいしいのかそうでないかがわかりません。基準は、その店を信用し、気に入っているかどうかにかかってきます。ここでは、ワインの味と香りをバーで試すことができるのです。お客さんにワインの味を試してもらい、「ああ、これはいけるね。これを買おう」ということになるのです。さらに違うワインを味見させ、「これも買おう」ということもあります。このようにワインを買うのはとてもいい方法です。試飲の有利な点は、自分が買うワインについて知ることができるということです。
-お客さんにアドバイスすることもありますか?
ドナムール 個人的には、ボルドー、コート・ド・ローヌ、カオールが好きですが、他人の好みについてはわかりません。人それぞれ自分の好みがあるのですから。ここで試飲してもらい、お客さんとワインについて語り合いながら、好みのワインを選んでもらいます。ここにはワイン好きな人が、ワインに関する話をするためにやって来ます。新しく入荷したワインが届いたら、味を試してもらい、感想を語ってもらいます。これはとても大切なことです。ですから、来る人みんなに新しいワインを飲んでもらいます。お客さんは一杯試し、気に入ったら買っていきます。
-一度に数本買っていく人もいますね。
ドナムール なぜなら、値段が安いからです。先ほど5本買っていった男性がいましが、そのワインは1本30フランと手ごろな価格。スーパーでは45~46フランはするものです。安売りのスーパーよりうちのほうが安いのです。うちでは、一つの種類を大量に仕入れ、ワインの種類を少なくしています。ご覧のとおり、たくさんの種類のワインがそろっているわけではありません。これが値段を抑えることのできる理由です。2000本のワインを300種類そろえるのは大変ですが、40~50種類なら可能です。大量入荷できるのは、一度に数本のワインを買っていくお客さんが多いからです。10ケース、50~60本を一度に買っていく人もいます。
夕方6時過ぎると、バーにはたくさんの人が集まり、片手にワイン、片手に本を持ちながら、みんな話に夢中だ。オーナーの二人も、熱心にお客さんと語り合う。
パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)