恋愛先進国フランスのla la laナンパ事情

『VoCE』2005年3月号に掲載された記事です。

フランス人にとってナンパは、人生の最大のテーマといえる。というのも、自分から声をかけなければ、恋がスタートしないのだ。まずは誘う。それが恋愛の第一段階である。

ここでいうナンパは、より本気度が高く、日本のそれとは微妙に違う。I-VoCEで行ったアンケートによると、日本人女性はナンパにかなり否定的。ナンパされて「断った」「無視した」女性は約7割。「ナンパがきっかけで交際したことがある」のは、たったの17%。「ナンパは出会いのひとつ」であっても、刹那的な匂いがするものでしかないようだ。

面白いことに、日本人男性のナンパを怪しむわりには、外国人には寛容で、「絶対拒否」と答えた人は半数以下。「日本人よりナンパの仕方がスマートなので対応しやすい」「日本人のナンパより誠意がありそう」という声もあった。

フランス人の誘い方は洗練されている。なぜなら、ナンパ術を心得ていないと、あの国では生きていけないから。

フランス語会話では、かなり初期の段階でナンパに使える言葉を学習する。「今何時ですか?」「この席空いていますか?」がきっかけをつかむ常套句。話を展開させる表現だけでなく、やんわり拒否する言い回しもしっかり習得する。ナンパは恋の駆け引きだから、邪険に断るのはダサいとされるのだ。

フランスのナンパの歴史は古く、12世紀の宮廷恋愛にまでさかのぼる。

騎士たちは、貴婦人の寵愛を得るために、愛の作法を身につけなければならなかった。甘い詩的な言葉を捧げ、献身的に尽すのが、騎士道の極意だったのである。

愛の騎士道精神は受け継がれ、1950年代にはモダンな形で花開く。男たちは、カフェや地下鉄、公園など、公共の場で堂々とナンパを繰り広げていた。当時、女性を夢中にさせたのは、流し目がセクシーな男たち。ジャン=ポール・ベルモンド、ジェラール・フィリップ、アラン・ドロンと、ヌーベルバーグ映画の男優たちは、くどき上手でキザな典型的フランス男を演じた。

それから半世紀。当然のことながら、ナンパの価値観や手段は大きく変化している。手っ取り早くベッドに誘い込む、男性本意のナンパはもはや時代遅れ。映画のワンシーンを真似て、熱いまなざしと愛をささやくのは、キモいと言われてしまう。引っ掛けられるのを夢見る乙女たちも存在しない。

フェミニズム運動の洗礼を受け、マッチョでギトギトしたナンパは敬遠されるようになった。女性は、道端で「ヒューヒュー」口笛を吹く男など、まったく相手にしない。女は単なる受け身の存在ではなくなり、自分からも臆せずアプローチする権利を得たのだ。

日本人女性は、ナンパ男に対し、「チャラチャラしていそう」「焦ってそう」「モテなさそう」と手厳しい。これだけ毛嫌いするのは、やり方が時代錯誤の域から脱していないからだろう。もちろん、女性からのナンパもカッコ悪いとみなしている人が多い。

今を生きる人々は、ライトで楽しい恋愛を求めている。となると、ナンパもこれまでのままでは通用しない。現代版フランス風ナンパは、知性と軽快さが必須条件となる。

フランス語で“誘う”を意味する動詞séduire(セドゥイール)は、時間をかけてネットリくどくイメージで、セックスと深く結びついている感じ。

それに変わって、トレンディとして多用されるようになったのがdraguer(ドラゲ)。こちらは、自然に声をかけ、すぐに仲良くなるニュアンスを含む。

ここで要求されるのは、ユーモアと優しさ、そしてヒューマニズム。誠意を示しながらも、ゲーム感覚のエスプリを利かせる。センスがなければ、ナンパは成功しないというわけだ。

かなり高度なテクニックである。やっぱり恋の達人は違う!と感心したいところだが、現実は厳しく、彼らの意欲をそぐ障害は後を絶たない。

近年、エイズや犯罪などの不安から、フランス人の警戒心は強まっている。また、個人主義は、他人との距離を広げ、プライバシーの侵害を恐れ、話しかけにくい空気が漂う。

それに加え、携帯電話やパソコンなどのコミュニケーション手段が発達し、面と向かった接触の機会はどんどん奪われている。

このような社会環境では、ナンパに懐疑的にならざるをえない。さすがのフランス人も現代では、公共の場では誘いにくいらしい。ナンパは公認であっても、実行できない人が増えているという。誘惑の機会の減少は、恋の発展を妨げている。ある調査によると、フランス人の約5割が「交際相手を見つけるのが難しい」と回答。フランスでも独り身の比率は増加し、問題視されているのだ。21~44歳の男性の20.6%、女性の14.4%が一人暮らしで、独身率上昇の勢いは止まらない。

でも、恋人は欲しい! 熱い思いを胸に、フランス人は日夜試行錯誤する。そして、あらゆるシチュエーションで、声をかけるチャンスをうかがい、挑戦し続けているのだ。
恋のためなら人一倍張り切るフランス人。危機的状況を、じーっと耐えているわけがない。当世風の出会いが必ずあるはず。ないなら、新たに作ってしまおう。こうして、出会いをお膳立てする風潮が高まっていった。

雑誌やタウンガイドでは、こぞって出会いスポットを紹介。オーソドックスな場所はカフェだが、そのなかでも、より誘いやすい店を列挙している。

日本では路上や飲み屋でナンパするパターンが多いが、フランスはどこでもいいというわけではない。趣味が一致する相手と知り合うことも大切だ。

そこで、文化的エリアが有力候補となる。インテリや学生、アーティストが集うポンピドーセンターの図書館、音楽好きのメッカ・ヴァージンメガストア、カルチエラタンのプール、二人がけのソファのある映画館。そしてフェスティバルに美術館……。ムードを盛り上げ、誘いやすくするのだ。

また、彼らは、日本人なら引きそうな方法でも、積極的に試す。

パソコンが普及する数年前までは、プティアナンスと呼ばれる新聞や雑誌の出会い広告が注目された。日本では普及しないが、7割以上のフランス人がこの手の出会いを容認している。

さらに、このところ躍進中なのが、インターネットを利用した出会いだ。口下手で内気な人は、特に期待をかけている。あるデータによると、フランス人男女の約400万人が出会い系サイトに参加したことがあるという。

「ネット上で知り合い、結婚する」ことに肯定的な人は67%、「チャットで交際をスタートしてもOK」と考えている人は74%もいる。

日本の場合、「ネットの出会い」に賛成は約5割。チャットとなると、65%が「信じられない」「遊び」とみなしている。

今回、話題のビジネスを取材して気づいたのは、どんな性格の人にも、平等にナンパの機会を提供していること。

クワイエット・パーティの筆談ナンパは、恥ずかしさをカモフラージュできるのが特徴だ。これなら、会話が途切れてもしらける心配もない。

ロー寿司やラブ・コネクションカフェは、インターネットの利点を活かし、ナンパを後押ししている。閉鎖的ではない、顔の見える演出が受ける理由。

次世代ナンパにみんな大喜び。恋の情熱がすべてを可能にする。あっぱれ!

クワイエット・パーティー
入場料10ユーロを支払うと、名札、紙とペンが渡される。19~21時の2時間、会話はご法度。飲み物の注文も筆談で行う。「こんばんは !! ここは初めて? ボクは初めてだけど」「私も初めて……」紙とペンを手に無言のナンパ開始。紙の裏表をびっしり使い、自己紹介や趣味の話などを楽しむ。文字の書き方や使う言葉で相手の性格をうかがい知ることができる。21時を過ぎると、雰囲気が一変し、音楽が鳴り響くディスコ会場に。ここからは、いよいよおしゃべりタイム。毎週水曜日に行われ、毎回100人近く集まる。

ラブ・コネクションカフェ
会員制の出会いサービスをはじめ、カフェ、レストランの経営、合コンを開催している。ホームページでプロヒールを登録すると、24時間以内に条件に合う人を紹介してくれる。相手を検索するのも可能。お互いの了解が得られたら、カフェでのデートをセッティング。登録料は一般会員で6ヶ月105ユーロ。紹介人数は無制限で、デートは月4回まで。

ロー寿司
スタイリッシュな回転寿司屋。カウンターに設置された62台のパソコンを使って、店内にいる客同士がチャットできる。画面にカウンターの席番号が表示され、気になる人の石版をクリック。実際に目で確認しながらのメッセージ交換が好評。接続を切ってしまえば、交信しないですむ。

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