『週刊金曜日』2017年3月10日号に掲載された記事です。
2017年2月28日、札幌の元原発作業員の50代男性が、労災不支給処分取り消しを求めて札幌地裁に提訴した。弁護団によると、福島第1原発事故の収束作業を巡り、労災認定を求める訴訟は全国初。
男性は2011年7月~10月に東京電力福島第1原発でがれきを撤去する作業に従事。12年6月から13年5月にかけ、膀胱、胃、結腸に、転移ではなく別々に3つのがんを発症した。13年に福島県の富岡労働基準監督署に労災申請したが、不支給となり、審査請求、再審査請求も棄却された。
記録に残された男性の被曝線量は、4か月で56.41ミリシーベルト。国が労災認定の目安とする、100ミリシーベルトを下回り、被曝から発症までの潜伏期間5年も満たしていない。
裁判の争点となる被ばくと発がんの因果関係について、弁護団長の高崎暢弁護士は、「労災の認定基準はあくまでも”当面の考え方”。原爆症認定で『一点の曇りもない科学的証明ではなく、経験則により総合的に判断する』との判決が出ている。原爆症訴訟の経験を生かし、勝訴したい」と力を込める。
原告側はまた、男性の被ばく線量が「記録より多かったはずだ」と主張している。
男性の業務は室内での重機の遠隔操作だったが、ケーブルの敷設などの屋外作業を余儀なくされ、がれきを直接手で運んだこともあったという。さらに、線量計の警報音が鳴っても作業を続行し、線量の高い現場では線量計を外して作業したとも証言している。
こうした労働環境にもかかわらず、記録上は「内部被ばくゼロ」で、計測方法にも疑問を呈する。
男性は代理人を通し、「同じような環境で働いている人たちの助けになれば」と思いを伝えた。
行政訴訟の第1回口頭弁論は4月13日。男性は東電などを相手に損賠賠償の係争中で、同日、札幌地裁にて民事訴訟も行われる。
フランスの原子力から考える<汚染・解体・下請け労働>