パリの店:本と玩具の専門店 Pentagram

『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2001年5月に掲載された記事です。

ツーリストにもおなじみのカルチエラタンは、パリ大学(ソルボンヌ)があり、文教地区として知られている。ここは大型店から専門書や古本など、書店が多いエリアだ。サンミッシェル大通りから一本入った小さな通りにある「パンタグラム」は、書店と玩具がミックスされたショップ。オーナーのフラウキさんが、教育をテーマにオープンしたのは約10年前のことである。現在、オーストリア人のショエルさんが彼女の手伝いをし、女性二人によってこの店が運営されている。

店は、左側が書籍、右側が玩具コーナーになっている。教育や自然科学、文学、詩集といった大人のための書籍、カラフルな積み木、オルゴール、手作りのマリオネット、子ども部屋を飾るインテリア小物、カード類、フランス人に人気のカリグラフィー、グッズやレターセットなど、店内はまさに「おもちゃ箱」のようだ。

今回は、ショエルさんにお話をうかがった。

-選ぶのに迷ってしまうほど、いろいろなものがありますね。

この店は、生まれたばかりの赤ちゃんから、学校に通う子ども、そして孫を持つおじいさん、おばあさんまで、あらゆる世代の人に満足していただけるお店です。大人のための本や教育に適した教材から、おもちゃや趣味のグッズまで、さまざまな商品をそろえています。

-個性的なものが多く、おしゃれですね。

世界中のものがそろっているんです。モダンであることも商品選びの基準にしています。お客さんのなかには、お部屋のインテリアやオブジェとしておもちゃを買っていく人もいます。おもちゃ屋はどこにでもありますが、この店ではオリジナリティ豊かな、子どものためになりそうなものを選ぶようにしています。子どものそれぞれの年齢にあわせた玩具を豊富にそろえているのです。

-どのように商品を選んでいるのですか?

専門の教育者のアドバイスを参考にしています。フランスの小さな工房で作っている工芸家とコンタクトをとって、商品を選ぶのです。また、ドイツなどで開かれる見本市なので、気に入った商品を買いつけます。子どものおもちゃを作っているアーティストは、教育に精通している人がほとんどです。

-ほのぼのとした温かさが伝わるものがたくさんありますね。

いい素材を使ったおもちゃばかりで、プラスチックとは違う、木のぬくもりを感じてもらえると思います。一般に売られているプラスチックのおもちゃとは違い、木製のものはずっしり重く、現実的で、肌でそれを知ることができます。木製の動物や人形は、フランスの工房で制作された手作りです。

-よく売れる商品はどれですか?

チェコ、スイス、ドイツで作られているマリオネットは、とても人気がありますね。コットンなど自然の素材を使ったぬいぐるみ、ファンシーなモービルは、出産のお祝いに選ぶ人が多いようです。おすすめの商品は、カラフルな粘土です。ドイツやオランダ製のものは質がいいですね。手でこねるだけで柔らかくなるので、小さな子どもでも簡単に遊ぶことができます。いろいろな色がそろっているので、好きなものを好きなように作ることができます。これらの粘土は、親子で遊ぶのに最適だと思います。

-どんなお客さんがこの店を訪れますか?

子どもや孫へのプレゼントを捜す人たちがやって来ます。ウインドーをのぞいて入ってくる人もいますが、お客さんのほとんどは、私たちの選んだ商品の良さを知っている方たちです。また、場所柄、観光客も多いですね。台湾や中国からのツーリストは、木製のおもちゃを買っていきます。日本人もときどき来ますよ。

-教育を意識しておもちゃを買う親は多いのでしょうか?

何が教育に良いのか、学習教材としてふさわしいのか、興味をもってやってくる親たちも多いですね。なるべく彼らの相談にのってあげるようにしています。

-フランスの親たちは、子どものおもちゃ選びに熱心ですか?

私はオーストリア人なので、子どもの教育に関して、フランス人と同じ考えというわけではありません。でも、フランスの子どもたちの問題にも関心を持っています。フランスでは、子どものためにいろいろなものを買い与え、過保護なところがあるようです。

-フランスの子どもたちも、日本のゲームやマンガが好きですよね。

フランスでも、かなり小さいときからテレビゲームを始めています。なぜなら、仕事で忙しい親は、子どもを静かにさせるためにゲームを与えてしまうからです。年齢にあった本やおもちゃを与えるということは、どんどん難しくなっているようです。現在は、子どもに適したものを提供しているとはいえないのではないでしょうか。

-フランスの子どもたちは、勉強のプレッシャーがあるのですか?

フランスでも、6、7歳以前の子どもに、読ませたり、書かせたりする教育をしていますが、これは少し早すぎるような気がします。イマジネーションを発達させるより以前に、「勉強しなければならない」という強迫観念を植えつけてしまうことになるのではないでしょうか。子どもの知りたいという欲求を力で強制してはいけないと思います。フランスには、昔から学歴社会の伝統がありますから、しょうがないのかもしれません。フランスの子どもたちは少しかわいそうですね。

-他のヨーロッパの国は違うのでしょうか?

ドイツなどは、もう少しのびのびしているような気がします。ドイツ、オランダ、オーストリアでは、座って頭を使う勉強だけでなく、歌や工作などの活動にも力を入れています。年齢にあわせて、自然な形で情操教育を行っているようです。

-本のコーナーについて紹介してください。

本は、さまざまな種類のものをおいてあります。子どものためのコーナーには、子どもが自分で遊びながら作ったり、試してみる教材的なものが多いですね。人形や仮装の衣装の作り方を説明している本など、簡単に作ることができて、楽しめるものばかりです。妖精の人形の作り方を紹介した本はとてもかわいらしいですよ。また、日本の折り紙の本も人気があります。フランス語だけでなく、ドイツ語や英語など、海外の出版物もそろえてあります。

-自然科学に関する本も豊富のようですが。

科学を勉強することはとても大切です。四季のすばらしさを感じたり、食べ物のありがたさを知ったり…。夏と冬では、野菜や果物が違うことをちゃんと理解するのも、とても重要なことだと思います。自然の素晴らしさを認め、自然を観察することにつながるからです。

-大人のための本も厳選されたものばかりですね。

食品や栄養に関するもの、文学や詩集、教育や家族、精神分析学や心理学、死生学や宗教、植物や惑星などの科学もの、さまざま人生の局面で体験する人間関係やコミュニケーションの問題など、幅広くそろえてあります。ドイツ語や英語の本も何冊かあります。

-フランスの大人たちは、教育に関する本に興味がありますか?

ここ20年ぐらいの間に、子どもの教育に関する本を買う人が増えましたね。現在は若者の問題や環境問題などが深刻なので、親もそれに関する本を買う傾向にあります。

-大人も一緒に学ぶことが大切なのですね。

講演会などもたくさん開催されていて、問題を解決しようといろいろ努力しているようです。大人たちは、情報をつねに求めていますね。この店で講演会などを企画することはないのですが、教育上ふさわしいと思うイベントの情報は、なるべく提供するようにしています。ドアを掲示板に使い、講演会やお話会、子どものためのワークショップや趣味のコースなど、小さな広告を掲示しています。さまざまな角度から、子どもの教育を応援したいと思っているんですよ。

Pentagram(閉業)

 

世界の専門店拝見 こんな店・あんな店 パリ
『月刊専門店』1991年1月号~2008年5月号(日本専門店会連盟)に掲載された記事です。 1999年1月号 香りの専門店 Diptyique 1999年3月号 フランス各地の工芸品 La Touile à Loup ...

パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)

タイトルとURLをコピーしました