『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」1999年5月
ここ1~2年、フランスではZENという言葉が流行語になっている。禅からヒントを得たものだ。インテリアにも、ZENを意識したものが話題になっている。従来の欧米型ベットとは異なるフトンもそのひとつ。
今回はパリのフトン専門店「エスパス・エ・ミュー・ゼートル」のオーナー、アントワーヌ・ラゲスさんにお話をうかがった。
-こちらでいうフトンとは、ベッドのことなのですか?
われわれがフトンと呼んでいるのは、木製の枠組み、ソファベッドや椅子、ベッドを覆うカバーのことです。西洋のライフスタイルにマッチするよう、日本の布団とは異なる形になっています。
-すべてフトンと呼ぶのですか?
リ・フトン(ベッド)、カナッペ・フトン(ソファベッド)などと呼んでいます。
-日本のように床に敷くフトンとはちょっと違いますね。
フランスでは畳とフトンをセットで買い、ベッドにする人も少なくありません。ときどき、部屋を日本風にしたいからと、畳とフトンを買っていく客もいます。でも、こういう人はまれですね。よく売れるのは、ソファベッドのようなカバーになっているタイプです。
-フトンとの出会いは?
妻と一緒に生活することになったとき、家具を探していたのですが、なかなか好みのものを見つけることができませんでした。外国はどうかと、イギリス、カナダの家具を調べているうちに、フトンを見つけたのです。自宅で使ってみて、とても気に入りました。
-それが店を出すきっかけに?
デザインのライン、コンセプト、快適さにおいて、フトンにとても興味を持ちました。当時、フランスには存在していなかったのです。10年ほど前にこの店を始めました。
-今では地下鉄などでフトンの広告を見ますが…。
残念ながら、それはうちの会社のものではありません。現在では、フトンを扱う店がたくさんあります。パリには、少なくても10店はあると思います。
-でも、最初にフランス人にフトンを紹介したのはラゲスさん。
そういうことになります。
-先ほどお話に出た、イギリスとカナダでは、フトンはすでにポピュラーだったのですか?
ヨーロッパでは、イギリスが一番早くフトンの販売を開始しました。カナダ人の友人の話では、カナダでも10年以上前からフトンがあったそうです。もともとはアメリカで誕生し、カリフォルニアからカナダ、イギリスへ伝わり、フランスに来たのです。
-現在では、フランスでもフトンが注目されていますね。
店をオープンした当時は、フトンを知る人はほとんどいませんでした。でも、今ではだいぶ認知度も高まりましたね。
-最近のZENブームも関係しているのでしょうか。
イギリス人やドイツ人に比べ、フランス人は日本の文化がとても好きだと思います。というのも、フランスでは畳がかなり売れているからです。ドイツはまだ畳を知る人が少なく、イギリスでも畳の売れ行きはよくありません。ベッドやソファのほうが売れています。フランス人のほうが、日本の文化を積極的に取り入れる傾向にあります。
-ラゲスさん自身も、日本に興味があったのですか?
この店を始める前から、日本人の友人はいましたが、特に情報収集はしていませんでした。いろいろ教えてもらったのは、店を始めてからですね。彼女の名前の付いたベッドもあるんですよ。以前はあまり日本のことを知りませんでしたが、だんだん興味がわいてきました。日本へは行ったことがないし、今のところ行く予定はありませんが、いつか行ってみたいと思っています。
-これらのフトンはフランスで製造されているのですか?
最初はイギリスから輸入していました。その後、専用のアトリエを持ってからは、オリジナルのフトンを製造しています。ここで売っているすべてのフトンは、フランス製です。
-デザインもこちらでするのですか?
デザインは親日家の友人が担当しています。伝統的な日本のデザインの批評などを読み、フォルムを考えます。シンプルで東洋のエスプリを感じるデザインが中心です。
-生地の模様は白と黒が多いですね。これもフランスで?
生地はベルギーやイギリスなどのヨーロッパ製です。東洋風デザインのコレクションから選んでいます。書道をほどこした生地も現在はヨーロッパで流行っています。
-フトン以外の製品は?
畳は中国と台湾から輸入しています。日本の畳は値段が高いので…。着物はもちろん日本製です。日本の友人から輸入しています。
-どのような人がフトンを買いに来ますか?
特に若い人が買っていきます。小型で低価格のモデルもあるので、学生にも人気があります。
-年配の方はダメですか?
保守的な人が多いので、フトンを受け入れませんね。40歳ぐらい以下がフトン世代でしょうか。
-価格的にはどのくらいなのでしょう?
より洗練されたタイプのもの、フトンの下に畳のベッドを組み合わせたタイプは、少し高めになります。値段は、2000~7000フラン。木の質、マットレスの厚さなどで値段がかわります。フトンの中心部には、デゥラテックスが入っています。日本のフトンはもっと薄手ですよね。
-フトンはますますポピュラーになっていくと思いますか?
20年前はフランスで誰もフトンを知りませんでした。10年前から少しずつ理解されるようになり、だいぶ普及してきました。フランスではここ数年、日本文化からインスピレーションを得たものがどんどん増えています。ケンゾーなどファッションの世界でも日本のデザイナーが活躍していますしね。印象派の画家が日本の浮世絵に影響された時点から、日本文化の影響が始まっているのです。今世紀初めのことです。フランス人はなにかしら日本の文化に興味を持っているのだと思います。フトンがもっと一般的になっても不思議なことはありません。
Espace et Mieux etre

パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)