パリの店:天使グッズ専門店 La Boutique des Anges

『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」1999年9月号に掲載された記事です。

ふと足を止めたくなる店というのがある。小さくても、なぜか目にとまる店。天使に関するものがバラエティ豊かにそろっている「ラ・ブティック・デ・ザンジュ」もそのひとつだ。場所は観光地モンマルトルの丘のふもと。昔から芸術家に愛された地域でもある。天使に囲まれて働くマリー=ブリジット・ド・キュイベールさんにお話をうかがった。

-ショップをはじめたきっかけは?

ここは3年前にオープンしました。20年前からショップ経営をしており、以前はアンティークを扱っていました。アンティークは、ランプひとつが5000~6000フランだったりと高価なものが多いんです。でも、これは私の望んでいたものではありませんでした。値段に関係なく、モノ、オブジェが好きな人に来てもらいたかったのです。商売が第一の目的ではなく…。もちろん、これは仕事ですから、お金も重要なのですが、何か精神的なものを大切にしたかったのです。

-それで天使に魅せられた…。

ええ。店の商品をすべて変えたら、客層も変わったし、自分の生活も変わりましたね。この店を始めて、いろいろなことが変化しました。一番感動的なのは、心の温かい人がここを訪ねてくれることです。不思議なもので、イヤな客が来たことはないですね。気持ちを癒してくれるものを探している人、快適な暮らしをしたいと望んでいる人、他人を尊敬できる人が、この店のお客さんになっています。

-観光地という場所柄、ツーリストも多いのでは?

いろいろな国の人が来ますよ。ドイツ人、イギリス人、アメリカ人、日本人。この店に入って来る女性は、どの国の人もみんなタイプが似ているんです。優しく、女性的で穏やか。攻撃的なタイプの女性は入って来ません。居心地が悪いみたい(笑い)。ときどきそういう人がのぞくけれど、「ここは好きじゃないわ」と言って出ていきますね。

-天使にも国籍はないのですか?

この天使は髪が黒いし、こっちは肌がベージュ。天使の国籍もいろいろです。合唱隊の黒人天使の人形は、アフリカの少女がこの店にやってきたとき、作ってみようとアイデアが浮かびました。歌を歌っている姿がとても楽しそうでしょう? アジア人の天使もいるんですよ。まさにユニバーサル。どこの国の人でも楽しめるようにね。

-こちらで作っている天使もあるんですね。

壁に飾る小さな天使の人形は、ここのオリジナルです。朝6時に起きて、店に来る前に私が作っています。手作りなので色も形も微妙に違います。オリジナル品はよく売れますね。お客さんは、その店のオリジナル商品をほしがるものなんです。
現在、他のショップに卸したり、カタログ販売もしています。日本、ドイツなど、どこにでも発送します。また、天使をプリントした布製バッグは、日本人にとても人気があります。このシリーズで、エプロンや傘なども作っています。ただの天使グッズショップではなく、生活全般のモノを扱うのが、店のコンセプトなのです。

-小さな店ですが、本、カード、アクセサリーと所狭し…。

将来的には店をもっと大きくしたいと思っています。本のコーナー、音楽、インテリア、キッチンなど、暮らしのすべてが天使で統一できるような店に。エルメスもゲランもヴィトンも、もともとは小さなショップから始まりました。エルメスは旅行、ゲランは香水からスタートし、世代から世代に受け継がれ、大きくなっていきました。でも、初めはたった一人からだったのです。エルメス、ゲランの創始者はプロテスタントだったんですよ。私もプロテスタントで、天使の店は始まったばかりだけど、100年後は大きく発展しているかもしれない、と大きな夢を持っているんです。

-他にもこのような店は存在するのですか?

天使の店は、フランスではここだけです。アメリカにもあるそうですが、まったく雰囲気が違うそうです。私はモダンなものも好きですが、アンティークの仕事をしていたこともあり、古いものも大好きなのです。この店には、すべてのスタイル、時代のものをそろえてあります。バロック時代、ナポレオン三世のもの、1950~60年代のもの、フランスの地方の工房で作られた工芸品もあります。いろいろなものを集めることで、天使の総合機関のような役割を果たしたいと思っています。いずれアンティークコーナーも作る予定です。

-お店の拡大の夢、実現するのが楽しみですね。

店を大きくしても、モンマルトルから移動するつもりはありません。ここモンマルトルは、天使の店にとてもふさわしいからです。私はパリ郊外のヌイイーで育ちましたが、その後、モンマルトルを生活の場に選びました。モンマルトルは、パリのなかでも不思議な雰囲気のあるところです。スノッブなサンジェルマン地区とは違い、街のみんなが「ボンジュール」と声を掛け合い、村的なものが残っているのです。一般市民、ブルジョワ、アーティストが入り交り、これにツーリストも加わる。このミックス感が好きなのです。自分がいつも旅人みたいな気持ちになります。もちろん、ツーリストはとてもいいお客さんでもありますし。

-天使は文化交流の支援もしてくれる…。

若いとき、ロンドンで1年半、ドイツで1年半過ごしました。外国人と接せるのが大好きなんです。その国の良さを知ること、文化を学ぶことは、素晴らしいと思います。

-ところで、デコレーションがとても美しいのですが、どこからこの発想が生まれるのですか?

特にアートの勉強をしたことはなく、“観察”が店のデコレーションに役立っています。美術館や劇場の装飾をじっくり見て参考にします。特に舞台芸術が好きですね。18、19世紀の舞台美術はファンタスティック! 観察、これがポイントなんです。日本の装飾もとてもすてきだなと思います。パリにある和菓子屋のパッケージの繊細さにいつも感動してしまいます。これはぜひ学びたいことのひとつです。日本からインスピレーションを得たものは、ヨーロッパでとても大切にされているんです。

「ジェレミー、これは壊れやすいから気をつけてね」 この日、13歳になる息子のジェレミー君が棚の掃除を手伝っていた。「男性はなかなか入って来ませんね。カップルで女性に連れられてならまだしも、一人ではね」という天使の店だが、ジェレミー君は喜んでお手伝いするのだという。

Boutique des Anges

 

世界の専門店拝見 こんな店・あんな店 パリ
『月刊専門店』1991年1月号~2008年5月号(日本専門店会連盟)に掲載された記事です。 1999年1月号 香りの専門店 Diptyique 1999年3月号 フランス各地の工芸品 La Touile à Loup ...

パリの食べ物屋(28のレストランやカフェを紹介)

タイトルとURLをコピーしました