パリのハーブ専門店L’Herboristerie du Palais Royal

『専門店』「世界の専門店拝見 こんな店・あんな店」2008年5月に掲載された記事です。

薬の消費量が世界一というフランスでは、ここ数年、環境への関心の高まりとともに、植物治療に注目が集まっている。
植物を乾燥させて粉末にしたものを錠剤やカプセルにしたり、薬草茶(ハーブティー)を飲用したり、さらに、アロマテラピーも植物治療のひとつとして見直されている。

フランスでの植物治療の歴史は古く、化学薬品に取って代わるまでは医療の主流であり、エルボリストと呼ばれる薬草専門家が薬局を開業していた。
エルボリストは、太古の昔に生まれ、フランスでは、ナポレオン時代に職業として確立。薬剤師と同等の資格とみなされ、700もの薬草を調合して売ることを許されていた。
1927年にはエルボリストの国家資格を制定したが、1941年9月、ヴィッシー政権下において廃止された。当時4500人いた資格保持者は、現在10数名ほどに減少している。

今回紹介する「エルボリストリ・パレ・ロワイヤル」は、薬剤師ミッシェル・ピエール氏が経営する店だ。ピエール氏は、エルボリストの資格廃止に関する法律に疑問を抱き、その歪みを正そうと闘った人物のひとりである。

パリのパレ・ロワイヤルの裏手にある、こじんまりしたショップ「エルボリストリ・パレ・ロワイヤル」で、ヴァニナ・ヴァリアックさんにお話をうかがった。

-オープンはいつですか?

1980年ごろですから、35年以上営業しています。

-支店はありますか?

店はこのパレ・ロワイヤルのみです。その他、自然食品やビエネートル(美と健康)の見本市や展示会にも出店し、薬草の効用を広く伝える活動を行っています。

-こうしたお店は、たくさんあるのでしょうか?

正式なエルボリストリは、パリに3軒だけです。フランス全体でも、20軒ほどにすぎません。薬草を販売する規定は厳しく、信用できる店は少ないのです。

-どのような人がエルボリストリを開くことができるのですか?

許可が下りるのは、薬剤師だけです。薬剤師でなければ、薬草を調合したり、処方箋を書くことはできません。

-薬剤師の資格が必要なのですね。

薬剤師がこうしたエルボリストリで働きながら学び、知識を身につけていきます。以前は国家試験があったのですが、67年ほど前に廃止されました。それ以来、フランスでは資格が復活していません。イタリアといった国では、植物療法の資格が存在しているのですが。

50~60年代は化学薬品の全盛期だったが、70年代に入って環境問題がクローズアップされ、植物による療法への回帰がはじまった。
この現象はフランスにとどまらず、スペインやイタリアをはじめとするヨーロッパ、アメリカと、世界的に広がっている。
ドイツやイタリアではエルボリストの育成にも積極的で、それぞれ5000人、45000人の資格者が存在しているそうだ。
しかし、フランスではエルボリストの公的な資格は認められていない。エルボリストは500種もの植物の特性を知り、症状に合わせてアドバイスする専門職である。短期間の学習では、プロのエルボリストにはなりえず、人材不足の状況だという。

-フランスでは、こうした植物療法に人気が高まっていますね。

フランスの医師は化学薬品を好んで使う傾向にあったのですが、伝統的な植物医療も守られてきました。

-植物原料の商品をさまざまなところで目にするようになりましたね。

少しずつ、消費者が買い求めやすくなっています。パラファルマシ(ドラッグストア)やBIOショップ(自然食品の専門店)でも、ハーブティーといった商品を扱っています。

-スーパーマーケットでも、そうした製品を見かけます。

スーパーマーケットも、有機野菜や精肉といったナチュラル製品コーナーが増大し、サプルメントなどが販売されています。ただ、店によって品質にばらつきがあるのは残念です。その点、エルボストリは、信頼できる薬草のみを扱っているといえます。

フランスでは、薬として使われる植物の消費量が増加の一途をたどり、ここ10年で、植物の需要が2倍に増加している。フランスで扱われる植物は、年間2万6千トンほどで、医薬品、生薬、化粧品などの原料になっている。

-商品について教えてください。

ご覧の通り、ハーブが多いですね。

-ハーブ以外の植物薬品としては、どのようなものがありますか?

植物から抽出した濃縮液は、植物の単品が41種類ほど、ブレンドが15種類ほどです。単品としては、血液の循環を促進する赤ブドウの葉、心臓によいオリーブの葉、気管支炎に効果的な松の芽などがあります。ブレンドは、タイムやイラクサをはじめ5種の植物入りの美肌用、タンポポや赤ブドウなどを含むデトックス、アンジェリカとバジル、メリッサといった植物を組み合わせたストレス用などがあります。

-他には?

植物など天然原料の錠剤が80種ほど、カプセルもあります。チンキと呼ばれる植物の液体、さらに、海草、アロエベラ、プロポリス、オメガ3、更年期障害用などのサプルメントもそろっています。

-エッセンシャルオイルも並んでいますね。

アロマテラピーに使うエッセンシャルオイルも症状を癒す目的で用いられます。うちでは、60種類ほど扱っています。

-スキンケア製品も?

オリジナルのトイレタリー、スキンケア製品、さらに、補助食品、ハチミツといった健康食品も販売しています。

-薬草は何種類ぐらいですか?

400種類の植物を扱っています。これらの芳香植物は香りがよくておいしく、食品、とくにスパイスとして親しまれています。美味というだけでなく、治療効果も高いので、健康を維持する目的でも取り入れていただきたい植物です。

-どのように用いるのですか?

ハーブティーとして飲む方法があります。ハーブティーは、どちらかというと治療として飲みます。消化不良の改善や体液の循環促進、不眠症の解消など、植物によってさまざまな作用があります。

-非常に種類が多いですね。

カモミール、エストラゴン、ティヨール、ローズマリー、バラ、カシス、フェンネルといった単品のほか、症状別などに数種類調合したブレンドがあります。

-ブレンドはこちらのオリジナルですか?

そうです。ティザン・グラン・レストランは、食べ過ぎて消化不良気味の胃を癒し、コリアンダー、アニス、アンジェリカ、フェンネル、ローズマリー、ペパーミントなどが入っています。元気になりたい人には、ティザン・デゥ・パシャがおすすめで、ジンジャー、シナモン、カルダモン、ペパーミントなどが組み合わされています。その他、快い眠りに誘う夜用、風邪用、心を穏やかにするブレンドなどがそろっています。

-これらの植物はフランスで栽培されているのですか?

栽培ではなく、大部分が野性の薬草です。

-野生?

そうです。350種ほどが野生で、生息地を自然の状態で保護し、収穫しています。

-栽培しているわけではないのですか?

残りの約50の植物は、有機栽培です。肥料も殺虫剤も使用しないで、野生に近い環境で育てています。

-原産地は?

南フランスが生息地として知られていますが、現在は約7割が輸入です。主に、東ヨーロッパ、中国、トルコ、ギリシャ、エジプト、モロッコ、アフリカおよび南アメリカの諸国から輸入しています。

-品質はいかがですか?

エルボリストリは薬局ですから、扱う製品は高品質であるべきです。この店で販売しているのは厳選された植物です。フランスでも薬草の品質基準は非常に厳しいのです。

-どのようなお客さんが来ますか?

フランス人ばかりでなく、世界各国の人です。日本人もたくさん来ます。

-海外でも販売していますか?

海外に支店はありませんが、郵送は可能です。パリの店を訪れ、気に入ってインターネットなどで注文してくるお客さんもたくさんいます。

-日本での出店計画は?

関税や運送費が課題で、なかなか難しいですね。

取材中、2、3度電話がかかり、お客さんも数名訪れた。「その症状は定期的に現れますか? それでは、体液の循環を促進する薬草がいいでしょう。3週間飲んでみてください」「よく眠れないのですか? それでは…」とヴァニナさんは大忙しだったが、「相談にのるのが私の役目です」とにこやかに対応していた。

そして、「薬草は昔から人々の心と体を癒してきました。植物の成分をすべて解明するのは不可能で、神秘的だからこそ人々を魅了するのだと思います。フランス人はつねに植物と接したがっているのです。」と結んだ。

フランスでは、植物療法の分析や研究が進み、現代医療を補完する代替医療としての地位を確実にしている。今後ますます、多くの分野で植物療法が取り入れられることになるであろう。

L’Herboristerie du Palais Royal:11 rue Petits Champs – 75001 Paris

 

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