フランスでもSudoku(数独)が爆発的ブーム

『日刊ベリタ』2006年7月30日に掲載された記事です。

フランスでも数字のパズルSudoku(数独)がブームになっている。英国では2004年にタイムズ紙で掲載されて爆発的に広まったが、フランスの流行はそれより1年遅れてはじまった。昨年7月から1年間でまたたくまに普及し、今ではフランス国民の半分は挑戦したと推定されている。一家にひとつはSudokuがあり、地下鉄やバスでもパズルを手にしている人が必ずいるのだ。秩序正しい数列に魅了される理由は、雑然とした社会への嫌悪感を反映しているという声もある。

関係出版社は50にも

Sudokuは、正方形に縦横9つの升目を作り、さらに3×3に区切って、それぞれの枡に1から9の数字を埋めていくパズルだ。数独と命名したのは日本のパズル雑誌ニコリで、世界的にSudokuとして知られている。日本で紹介されたのは1984年だが、イギリスやフランスほどの現象はまだ見られない。しかし、一般のフランス人たちは、生まれ故郷である日本でもSudokuが大流行していると思っているようだ。

フランス初のSudoku雑誌を出版したのは、オランダのアムステルダムに本社がある出版社キーシング・フランスだ。英国でのヒットに目をつけ、独自のソフトを開発し、昨年7月に出版を開始した。ポケット版の創刊号は、異例ともいえる2万部を売り上げた。現在のところ、6つの難易度レベルを組み合わせたり、サイズを変えるなどして、Sudokuだけで13の雑誌を隔週で刊行している。フランスでの売り上げは業界トップだ。

キーシング・フランスのジェネラル・マネージャー、グザヴィエ・ド・ブール氏によると、フランスではSudoku関係の出版社が50ほどあり、140以上の雑誌や本が出版されているという。フィガロ、ルモンドといった日刊紙での掲載を合わせると、120万から130万部にのぼるそうだ。2005年6月にはどの媒体にも掲載されていなかったので、驚異的な増加だ。

キーシングはSudokuの大会も主催し、第1回フランス大会は昨年12月に、第2回は今年5月11日に行われた。ベルギー、オランダ、デンマークでも同様の大会を開いている。ちなみに、これらの大会でのチャンピオンは全て女性だった。

愛好者は男女とも若い層

もともとフランスでは、クロスワードといった枡を埋めていくパズルの愛好者が多い。伝統的なクロスワードパズルは50年以上の歴史があり、特に年配層に親しまれている。また、クロスワードの一種モ・フレシェ(ヒントに従い矢印の方向に言葉を入れていくパズル)は、Sudokuの登場で少し売り上げは落ちたが、100万から120万部を数える。

モ・リフレシェはどちらかというと女性ファンが上回っているが、Sudokuに関しては男女に大差がなく、年齢層が若いという点が特長だという。

昨年夏以降、フランスでパズルといえばまずSudokuを選ぶ人が増加した。雑誌だけでなく、日刊紙、本、インターネット、携帯電話、コンピューターゲーム機など、さまざまな手段で楽しんでいる。

「定期的にSudokuをしている人のうち、3割強は情報処理技術者や理数系の学生、エンジニアで、文科系ではないですね。クロスワードといった文字のパズルは無経験の人たちです。残りは、以前は別のパズルをしていた人です」とグザヴィエ・ド・ブール氏は語る。

それにしても、フランス人がどうしてSudokuにはまるのか?一番の理由は、数字だけを使うシンプルなルールにある。「特別な知識がなくてもできるのが人気の秘密でしょう。クロスワードパズルなどは、地理や歴史に関する最小限の知識が求められますが、Sudokuには無用です。3歳の幼児から100歳の高齢者まで、どのような人でも挑戦できます」

ルールは単純だが、容易には解答がでないので、全て解けたときの達成感も大きい。推測力や観察力、記憶力や速さも要求される。「ひとつできたら次はもっと速く、と欲が出てきます。レベルを上げることで、自分への挑戦という気持ちも湧いてきます。また、二人で競い合うこともでき、競争心を駆り立てるようです」

場所を選ばず、ひとりでできる気軽さも魅力だ。個人主義社会にはうってつけのパズルともいえる。

インターネット版レクスプレス誌(2006年4月6日)によると、Sudokuが好まれるのは、無秩序、欠乏、空虚といった現代社会の憂いに明快な回答を提供するからだと分析している。秩序を整え、それぞれの位置を正し、目前の混乱を回避する。そうした機会を与えるのがSudokuなのだという。

暇つぶしに最適と、寝る前やちょっとした空き時間にやる人が多く、「数の並びが美しい」「純粋な論理的結果に満足」と夢中になっているが、西欧人の数字に対する感覚は、日本人とかなり異なるらしい。英国やフランスに長く滞在している日本人でさえ、なぜこれほど熱中できるのかと首をかしげている。

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